1990年代に運送業の規制緩和が行われたことから、新規参入が爆発的に増えました。
その結果、国内の物流の滞りは解消されましたが、運賃の価格競争によりトラックドライバーの労働時間が増加していったのです。
トラックドライバーの労働環境を改善させ、適正な賃金を提供させようと、国土交通省は2020年4月に標準的な運賃を告示しました。
運送会社と荷主との運賃の価格交渉に使用することで、トラックドライバーの労働改善を促すためです。
この記事では、トラック運賃はどのように計算されるのか、標準的な運賃が告示された背景や利用方法について解説します。
トラック運賃の計算方法や標準的な運賃を知れば、荷主は悪質な運送会社に騙されるのを避けられますし、運送会社は適正な価格で荷主にトラック運賃を請求できるでしょう。
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トラック運賃の計算方法
トラックの運賃は、「運送にかかる費用」と「運送業務以外」にかかる費用で構成されています。
そのうち、運送にかかる費用は次の3つの計算方法で算出します。
地域間ごとの規定運賃
地域間の規定運賃とは、たとえば「福岡~大阪までの運送費は10万円」とあらかじめ料金が設定されているケースです。
各区間ごとに運賃が設定されています。
運送先の地域に自社の営業所が多いなど、地域に独自の強みがある場合は、運賃が安く設定されていることもあります。
輸送距離による計算
輸送距離による計算とは、「輸送距離×単価」というシンプルな計算方法で運賃を算出する方法です。
運送距離が基準となるため、トラック運送会社も荷主側も料金がわかりやすいというメリットがあります。
しかしながら、この運賃の計算方法だとトラックドライバーの拘束時間は考慮されません。
たとえば荷積みに時間がかかったり、渋滞にはまってしまったり して、トラックドライバーの拘束時間が長くなっても、運賃の増額がないため、トラック事業者に損失が出てしまう可能性があるのです。
また2024年4月から働き方改革関連法によりトラックドライバーの年間時間外労働の上限が960時間に制限されます。
時間外労働に上限が設けられることから、1人あたりのトラックドライバーの輸送距離が短くなることが予想されています。
トラックドライバーの給与は輸送距離に応じて加算されるため、トラックドライバーの給与が減ってしまう恐れがあるため注意が必要です。
輸送時間による計算
輸送時間による計算とは、荷主から納品先へ輸送にかかった時間を基準にした計算方法で「輸送時間×単価」で運賃を算出します。
輸送時間は、運転する時間帯やルートによって変動するため、トラック運送業者が独自で規定を設けているケースが多いです。
なお輸送距離による計算・輸送時間による計算、どちらの計算式にも単価がありますが、この単価の目安の計算方法の一例は以下のとおりです。
- (運送距離÷燃費)×軽油代+日数×2万円=原価
- 運賃=原価×1.1~1.2(利益)
また納品先のルートで、主要幹線道路を通らない場合、さらに運賃が上乗せされることもあります。
運送業務以外にかかる費用
トラックの最終的な運賃は、運送にかかる費用に運送業務以外にかかる費用を合算したものになります。
運送業務以外にかかる費用は次の通りです。
- 人件費(ドライバー)
- 燃料費
- タイヤ等の消耗費
- 自動車保険・荷物保険
- 有料道路料金
- フェリー料金
- 事務手数料
- 車両修繕費
- 車両償却費
- 有料道路使用料
最後に利益を上乗せした料金がトラック運賃となります。
国土交通省が定める標準的な運賃とは?
国土交通省が定める標準的な運賃とは、トラックドライバーの労働環境改善を目的として、国土交通大臣が公表した運賃の目安のことです。
トラック事業者が荷主との運賃交渉で標準的な運賃を使用することで、適切な運賃を提示し、交渉することができます。
2020年4月に初めて告示され、2024年3月22日に改訂されました。改訂された内容は次の通りです。
改訂内容 | 詳細 |
運賃水準引き上げ | 物価上昇や人件費の高騰を考慮し、前回の告示から運賃水準を8%引き上げ |
荷役に関する対価を明記 | 積込料・取卸料(中型車30分あたり)が、機械荷役の場合2180円、手荷役の場合2100円と明記。さらに荷待ち・荷役の時間が2時間を超えた場合、割増率が5割加算 |
燃料サーチャージの明確化 | 燃料サーチャージの算定方法がより明確化。サーチャージテーブルが提示される |
標準的な運賃は法的拘束力を持つものではありません。
トラック運送業者が標準的な運賃を活用する場合、管轄の地方運輸支局に運賃料金変更届出が必要で、以下の書類が必要になります。
- 運賃料金変更届
- 運賃料金適用方
標準的な運賃を交渉時に使用するかどうかは、トラック事業者に委ねられています。
また燃料価格の高騰化で、トラック事業者の運送コスト増加が問題になっていることから、標準的な運賃の告示だけでなく、燃料サーチチャージの導入も進められています。
燃料サーチャージとは、燃料価格の変動に対応するために、運送業者や航空会社が運賃とは別に徴収することができる追加料金のことです。
しかしながら、トラック事業者は荷主側に追加料金の交渉を切り出しにくく、燃料サーチャージ制度の導入はまだ普及されていません。
標準的なトラック運賃が告示された3つの理由
国土交通省が標準的な運賃を告示したのには、次の3つの理由があります。
- トラック運賃の価格競争が激化
- トラックドライバー労働環境改善
- トラックドライバー不足の解消
それぞれ詳しく見ていきましょう。
トラック運賃の価格競争が激化
国土交通省が標準的な運賃の告示した理由の1つにトラック運賃の価格競争の激化があります。
1990年代にトラック運送事業の規制緩和が行われ、新規参入が増えたことによりトラック運送事業者が一気に増加しました。
その結果、仕事を得るために価格競争が激化し始めたのです。
また新規参入したトラック事業者のほとんどは、車両台数が30台以下の中小企業ばかり。
原価計算が明確にできていない事業者が多く、運賃の値上げ交渉をしようにも根拠が示せずに交渉で負けてしまうケースも少なくありません。
さらに価格交渉をしているうちに、他の事業者がこちらが提示した運賃よりも安い運賃を提示し、仕事を取られてしまうという悪循環に陥ってしまうことも。
価格交渉が上手くいかず、低価格な運賃で仕事を請け負った結果、トラック事業者の約半数が赤字という現状があります。
トラックドライバーの労働環境改善
国土交通省が標準的な運賃の告示した理由の1つにトラックドライバーの労働環境改善があります。
トラック運賃の価格交渉のしわ寄せが来るのが、配送を担当するトラックドライバーであるためです。
トラック運送事業者が低価格の運賃で仕事を請け負ってしまうと、売上の大部分が運送業務以外の必要経費に取られてしまいます。
その結果、トラックドライバーの給料がわずかという事態に陥ってしまうのです。
また、トラック事業者は低価格な運賃から少しでも利益を上げようと、トラックドライバー1人に対する仕事量や労働時間を増やすことも考えられます。
トラック運賃の価格競争の激化が、トラックドライバーの長時間労働・低賃金の環境を作り出したと言えるでしょう。
トラックドライバー不足の解消
国土交通省が標準的な運賃を告示した理由の1つにトラックドライバー不足の解消があります。
トラック運賃の価格競争によりドライバーの長時間労働・低賃金が顕著化してしまった結果、ドライバーが辞めてしまうのはもちろんのこと、ドライバーになる人も減少しているためです。
さらに追い打ちをかけるように2024年4月から適用された働き方改革関連法により、トラックドライバーの年間時間外労働に制限がかけられ、1日あたりの輸送距離も短くなってしまいました。
その結果、トラックドライバーの給与はますます減ってしまう恐れがあり、生活ができなくなるドライバーは辞めてしまうことが予想されます。
標準的な運賃の告示を荷主の価格交渉で活用することで、ドライバーの運賃を上げ、ドライバー離れを抑制する役割も果たします。
荷主がトラック運賃を確認するときのポイント
2024年問題をそのままにしておくと、物流が滞る恐れがあるため、国は総力を上げてトラックドライバーの労働改善を進めています。
そのため、今後はトラック運送業者が荷主に対して価格交渉を依頼してくる場面が増えてくることが予想されます。
多くの運送業者は、適正価格での値上げ交渉をしてきますが、中には値上げの波に乗り、法外な運送費用を請求してくる業者も出てくるかもしれません。
荷主がトラック輸送業者に輸送を依頼するときには、以下の点に注意して、悪質な業者に騙されないよう気を付けましょう。
標準的な運賃と比較
国土交通省が告示した標準的な運賃はトラック運送会社が使うものと思われがちですが、貨物の輸送を依頼する荷主もチェックする必要があります。
トラック運賃の値上げを予測するのはもちろんのこと、法外なトラック運賃を請求されたときに、標準的な運賃を提示して依頼を断ることができるためです。
なお、トラック運送業者が国土交通省が定めた標準的な運賃を荷主との価格交渉に活用するかどうかは、自由とされています。
また荷主が標準的な運賃よりも安い運賃で仕事を依頼したとしても、法律で罰せられることもありませんので覚えておきましょう。
そのため、荷主は値上げ交渉でトラック運送業者より法外な運賃を請求された場合は、毅然と断っても法的に問題ありません。
運賃割増率・待機時間の確認
荷主がトラック運賃を確認するときは、内訳だけでなく運賃割増と待機時間が運賃の詳細に明記されているかどうか確認しましょう。
トラック運送業者がこれらの金額を提示し忘れていたり、あえて提示せず後から追加料金として請求されることもあるためです。
《運賃割増が発生するケース》
- 特殊車両(冷蔵庫車・冷凍庫車など)を使用
- 日曜・祝日に運送
- 深夜・早朝(22時~5時の間)に運送
- 当日発送
《待機時間が発生するケース》
荷待ち時間や荷役時間が30分を超えるごとに発生。
これらのケースはあくまでも目安で、会社によって割増率や割増料金が発生するケースが異なります。
トラック運送業者と価格交渉する際は、割増料金や待機時間料の算出方法や規定について確認しておきましょう。
トラック運賃に関するお悩みは日新運輸工業にお任せください
2024年問題を解消すべく、国土交通省は2024年3月に標準的な運賃の内容を一部変更しました。
その内容は、実質的な運賃の値上げを告示するもので、今後は輸送コストがますます上がることが予想されます。
しかしながら輸送手段を変更したり荷役作業の効率化を図ったりすることで、輸送コストの大幅な値上げを抑えることが可能です。
ただ日常業務をしながら、荷役作業の効率化を図ったり輸送手段の変換を検討したりするのは難しいでしょう。
輸送コストの削減は、専門家に相談するのがおすすめです。
日新運輸工業は物流のスペシャリストなので、お客様が輸送したい貨物の種類や輸送場所に応じて最適な輸送手段やルートをご提示できます。
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まとめ
2024年3月に国土交通省は、標準的な運賃の改訂を告示しました。
この改訂では、トラックドライバー不足や労働環境改善のため、トラック運賃の実質的な値上げを後押ししています。
その波に乗って、今後トラック運送業者は価格交渉をしてくることが予想されています。
トラック運送業者が適切な価格で運賃を請求することは、トラックドライバーの労働環境を守ることにつながるので、荷主はある程度の値上げを容認する必要があるでしょう。
しかしながら、トラック運送業者の中には不当に高額な運賃を請求してくる可能性もあるため注意が必要です。
荷主は悪質なトラック運送業者に騙されないためにも、国土交通省が告示した標準的な運賃を確認し、運賃が適正かどうかを見極めなければなりません。
事業者が標準的な運賃の内容を確認して、トラック運送業者と直接交渉するのはなかなか難しいものです。
日常業務をしながら、トラック運送業者との価格交渉をスムーズにおこなうには、専門家の手を借りるのも1つの方法です。
今後、トラック運送にかかる費用の増加は避けられません。その中でも少しでも輸送コストを抑えるため、専門家の知恵を借りてみてはいかがでしょうか。